姉の幸せ

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 名前を呼ばれたので顔をあげると顔見知りになった田中のおばあちゃんがいた。いつも散歩ついでに来ていて、たまに宮司さんとも雑談をしている。  今日も話が始まるかと思っていたら、おばあちゃんは首をかしげた。 「葵ちゃんここにいていいの?」 「えっ?」 「さっきお家の前にタクシーが来ていたからお母さんに聞いたのよ……そうしたら茜ちゃんが産気付いたって」 「………………え?」  ポカンとしたのと同時に、社務所から宮司さんが飛び出してきた。 「茜ちゃんが病院向かったってー!」 「!」 「今日はもういいから帰んなさい!」 「ありがとうございます!」  走ってくる宮司さんに箒を預けて急いで更衣室へ。普段着に着替えて、神社を出る前にお参りをする。  賽銭箱に小銭を、と思ったけどここは奮発して千円札を入れた。いつもなら二礼二拍してから言う願い事も今回ばかりは大目に見てほしい。 「無事に子どもが生まれますように!」  最後に大きく一礼をして、急いで神社を出た。ちょうど着ていたバスに飛び乗って駅に向かう。そこから電車で2駅にある産婦人科に姉は通っていた。時々付き添っていたから覚えている。
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