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もう悔やみたくない。これ以上何も。
そう考えると気持ちが楽になった。
「わかりました。では目を閉じてください」
「はい」
目を閉じる前に神様の右手が伸びてきた。人差し指と中指が私の眉間の辺りにつけられて、思わず目を閉じる。ひんやりとしてちょっと気持ちいい。
なんて思っていたら暗闇で背中が引っ張られるような、宙に浮いて落ちるような不思議な感覚がした。
「一度きりです、もう後悔のないように」
暗闇の中で最後に聞いたのはそんな言葉だった。
○
急に眉間にあったひんやりとした感覚がなくなり目を開けると実家の居間に座っていた。
テレビも最新の薄型ではなくブラウン管のものだ。カーテンの色もさっき見た色と違っている。たしか数年前までこんな色をしていた。
「葵、聞いてるか?」
「へ」
「だから、葵はどう思う? 俺たちの結婚について」
声のする方をみるとそこには学生服をきっちりと着た潔がいた。隣にいる姉の茜は青い顔をしてうつ向いていた。ベージュのスーツはあの日最後に見た姉が着ていたものと同じだった。
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