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 あの日。  私は兄と、坂道の天辺にいた。  暑い夏の日で、蝉がひっきりなしに鳴いていた。のびた服は汗にべっとりとはり付いていた。  景色はくらくらと揺れて、日差しは私たちの肌を焼いていた。  汗がしみて、日差しにあぶられ、傷はねっとりと痛んだ。  それでも、まだ帰るわけにはいかなかった。今は怖い鬼が、暴れているから。  瞬きのたび、まぶたに汗が流れ込んだ。流れすぎた汗は、あまり痛くない。  兄は、私の手を固く握っていた。だから、私は動けないし、動かなくてよかった。  兄を見上げる。兄は、坂道の下をにらんでいた。  私たちの帰らなくてはならない場所を。  ずっとずっと、強い目で、にらんでいた。
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