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俺、魔法のホットケーキを思い出す
アニキの言う通りに、両親の名前を泣き叫ぶ俺を抱えた先輩の自宅で、アニキの帰りを待っていた。
先輩の家が、俺に用意してくれた部屋はとても静かで、荒れていた心も、次第と落ち着いてきた頃、ノックと共にアニキが顔を出した。
胡座をかいたアニキが前に座ると、ベットで寝転んでいた俺も同じように座る。
大きく深呼吸をしたアニキが、両親の死についての説明を話し始めた。
「謙吾……父さんと母さんは……お星様に……」
「俺はもう18歳なんだけど……」
「………だよな……悪い」
今まで、警察に色々聞かれたのか、それともこれからの事を考えて走り回っていたのか、俺にはわからないけど、ネクタイを緩め、憔悴したアニキに胸が苦しくなる。
いつもそうだ……何でも自分で抱えて……
「アニキにとって俺ってなんなの?」
「え?愛してやまない弟」
いや、目を輝かせて、さらっと気持ち悪い事言うなよ……
じゃなくて!!!と声を荒げ、苛立ちから、頭を抱えるが、アニキは気にもとめずに、マイペースで事を進めていく。
両親はずっと考えていたのか、俺達がお金に苦労しないよう、色々と残してくれている事、それについて書かれた遺書があった事、だから心配するなと言ったけど、二人が亡くなった理由は、何度聞いても、アニキは、困ったように笑ってはぐらかすだけ。
そんなアニキの態度は、これ以上聞くなと無言の圧力をかけてるようで、次の言葉が出ない。
突然、口を閉ざした俺を拗ねているのかと勘違いをしたアニキに、突然肩を掴まれ、真剣な顔に、思わず生唾を飲み込む。
「安心しろ! お兄ちゃんは謙吾くんの事を愛してるからな!」
「こんな時に何だよ! 気持ち悪い!」
「凄く照れてる謙吾くん超かわ♡」
「アニキ!」
「お兄ちゃんって言いなさい!」
止めを刺したアニキは、帰るぞ!と、俺の頭を乱暴に撫で、くしゃくしゃにされた髪を戻しながら、普段と変わりがないアニキの背を見て、心は大丈夫なのかが気になる。
俺よりも両親と長くいて、その両親のことを警察に色々聞かれ、心が疲れて筈なのに……
こんなに笑ってるのも、俺が不安にならないためなんじゃないか?
本当は……もっと泣きたいんじゃないのかな?
『泣く』そのワードに、ふと、母さんが泣いている俺にホットケーキを作ってくれた記憶が、映像として蘇った。
運動会で失敗して泣いている俺に、母さんがホットケーキを作ってくれて、泣きながら食べた俺は、あまりの美味さから涙が止まり、魔法だと騒ぎ始めた俺に、微笑みながら言った言葉を思い出した。
『美味しい物を食べるとね人は笑顔になるのよ』
アニキも母さんのホットケーキを食べたら笑顔になるんだろうか……
母さんの味には程遠いかもしれないけど、今回だけ、家に帰ったらアニキに作ってやるか!
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