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俺、母さんの夢を見る
先輩の家を出て、自宅に帰る道中は、お互い何も話さず、一歩下がって歩いた俺の手を、アニキは離れないようにぎゅっと握ってきた。
「なんだよ」
「真っ暗だから、夜道が怖いって泣き出したちっちゃい謙吾くん思い出しちゃって♡」
「思い出すなキモイ」
「はいはい、おにーちゃん大好きね♡」
「聞けよ! 人の話!」
俺とのやり取りはいつものようだけど、覇気がないのは、やっぱり疲れているのだろう。
俺の悪態も笑って交わし、家の前に着いた所でアニキの足が止まった。
さっきまで黄色いテープで囲んでいた家は、事件性がないことから、囲んでいたテープは撤去され、元の姿に戻った家を見上げたアニキは、深い深呼吸の後、繋いでいた手の力が強くなる。
「大丈夫、なんとかなる」
俺に向かって言ったのか、アニキの強い意思表示が音として出たのかはわからないけど、俺もいるからと言葉にできない代わりに、力を入れて握り返すと、俺を見てきたアニキの口角が、徐々にあがっていく。
しまった!と気づいた時には、すでに手遅れで、俺をからかうスイッチ音がカチッと大きな音を立てる音が聞こえる。
「あれ〜? 謙吾くんって、まだ夜道怖かったのかなぁ?」
「そんなんじゃねぇ!」
「やべぇ……弟が超かわいい♡ お兄ちゃん感動したから椿と桜雫に報告しよ〜♡」
「すんじゃねぇよ!!!」
取り出したアニキのスマホを奪おうと、伸ばした手は空を切り、軽く交わしたアニキは、音符を撒き散らし、スマホを操作ながら、家の中へと入っていき、取り残された俺は、疲労感から肩を落し、黄色いテープの跡が残るドアを開け、家の中に入った。
そして、その夜、俺は夢を見た。
場所は、家の中の食卓。
口の周りや、鼻の頭を真っ白にさせたちっちゃな俺が、もっともっとと生クリームがついたホットケーキを頬張る。
隣には、優しく微笑む若かりし頃の母さんが、お待たせしましたとキッチンから姿を現し、フォークを加えたまま、床につかない足を揺らし、わくわくしている幼い俺の皿に焼き立てのホットケーキを重ねていく。
俺は、母さんが作るこの魔法のホットケーキが大好きだ……それは高校生になった今でも変わらない。
俺の視線に気づいたのか、ふと、顔を上げた母さんと目が合い、微笑んでいた母さんは、俺にごめんねを伝えると、また、ちっちゃな俺と笑顔で話しを始める。
俺は。もう一度、母さんの顔を見たくて、名前を叫んだ所で、目が覚めた。
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