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俺、アニキと葬儀場に着く
アニキの車で到着した葬儀場は少し遠く、車から降りた俺は、二人の遺体と対面するのが怖くて脚を出すこともできず、建物を見上げていたら、あーちゃんに肩を抱かれる。
「Brother、いい事を教えよう、おじさん達は今にも起きそうなぐらいキレイな顔をしてるんだ、怖がることないぞ俺が保証する」
「あーちゃん」
「honeyは抱きしめてあげるからね♡」
「声かけてくるなクソ野郎」
あーちゃんの首根っこを掴んで、俺から引き離したアニキに、行くぞと手を引かれて中に入り、畳の部屋の奥に寝ている2つの布団。
もう起きることのない両親とやっと再会した。
冷たくなった二人は、あーちゃんが言ったようにとてもキレイで、今にも起きて俺とアニキの名前を呼びそうで……全身の力が抜け、崩れ落ちそうになるところを、先に来ていた先輩に支えられ、ゆっくりと座らされる。
「しっかりしろ……っても無理か……」
言葉が出てこない……アニキのおふざけとあーちゃんの軽さに気が緩んでいたのか、二人を目の前にした途端、現実に戻され、乾いたはずの涙がまた溢れ出てくる俺に、いつも冷静な先輩が慌てなだめられ、少し落ち着いた俺が、ふと、疑問が浮かぶ。
何かがおかしいし、何かが足りない。
「……先輩……何か静かじゃないですか?」
「あー……あれだ……いつもなら慌てて駆けつけてきて、『謙吾くんに何をした!』って言う人の事だろ?」
流石、先輩……アニキの事をよくご存知で……
やっぱり、スーツの事まだ根に持ってるのかな? となると……また、あーちゃんと喧嘩してるんじゃ……そうだとしたら更に面倒くせー……
「俺、ちょっと探してきます」
「待て待て待て、方向音痴が一人で行ったらどうなるか考えてみろ」
立ち上がろうとした腕を掴み、引き止めた先輩の顔は呆れていて、それでも探さないと二人が喧嘩とかなんか嫌だし……
押し黙っり、項垂れる俺を、先輩から大きなため息が聞こえ、二人でアニキを探しに行くことになった。
✱✱✱
部屋の近くにある喫煙所にも、近くの控室にも二人の姿はなく、最後の捜索場所に残ったのは、広い葬儀場。
階を降りた広い部屋の前で、先輩の足が止まり、唇に人差し指を立て、片方だけ開いている両開きの扉を指差した。
部屋で話す二人の声は、誰も居ない事で普通の声で話していても外に丸聞こえで、悪趣味って言われそうだけど、閉まっている扉に二人で耳を当て、立ち聞きを始める。
「おじさん達は、殺されたわけでも、事件に巻き込まれた訳でもない……Do you talk to Brother?」
普通に話していたあーちゃんの言語が、突然、英語に変わり、不穏な空気に包まれた俺は、先輩と顔を合わせた途端、聞き耳を立てていた扉がゆっくり開く。
現れたのは、目を見開いて驚いているアニキと呆れ顔のあーちゃん。
「謙吾? 椿まで……お前ら……」
「二人揃って盗み聞きか? 逮捕するぞ」
指に掛けた手錠を揺らし、にこやかに笑うその笑顔の目は笑ってなくて、あまりの怖さに唖然としている俺達を見たアニキが、あーちゃんの脇腹を肘でつく。
「謙吾、もしかして寂しくなっておにーちゃん探しに来たのか?」
「別に! そんなんじゃねーし!」
「照れてる謙吾くん超かわいい! うん、うん父さんたちの所に戻ろうね♡」
脇腹を押さえ、うずくまっているあーちゃんを置いて、俺の背中を押し、超がつくほどのご機嫌なアニキと父さん達の元に戻ることにした。
あーちゃん、なんか……ごめん……
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