俺、母さんの遺品を貰う

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俺、母さんの遺品を貰う

 箱を開けて出てきたのは、臙脂色の台にゴールドでコーティングされた小さな輪っかのピアスが顔を出した。  ピアス?  家族で誰もピアスを開けてる人はいないし、事更に母さんは怖くて開けられないと、アニキが開けるよう進めても渋った程なのに…  その疑問が、顔に出ていたのか、頬杖を吐いたアニキが懐かしむように、くすっと笑い出す。 「やっぱり謙吾は母さん似だな……こんなところでも母さんと同じ顔をする」 「え?」 「それ、父さんが母さんに初めてプレゼントしたピアスなんだけどな? イヤリングと間違えてピアスの方を買ってきたんだ」  それ、と指をさした箱に目線を戻し、光るゴールドのピアスを持ち上げ、色々な角度から見てみる。  確かに……母さんがつけると、絶対似合いそうなピアスで、これがイヤリングなら毎日のようにつけていただろうな……    俺達よりも、父さんの事が好きだった母さんは、それでも嬉しくてつける事のないピアスを持ってたのかと思うと、何故か笑みがこぼれ、アニキに貰ってもいいか尋ねたが……勿論、その答えは決まっていた。 「駄目だ」 「はぁ? じゃぁ、なんで渡したんだよ!」 「渡したらピアス開けるだろ? 謙吾くんのそんな姿おにーちゃんは見たくないし! ピアスなんて開けてみろ人生が変わるんだぞ!」 「どこの七不思議だよ!」  あったま痛くなってきた……今どきの高校生は性別関係なくピアスぐらいしてるし、マネキュアだってしてるんだから……と叫びたくなるほどの言葉で反論したくても面倒くさくなり、考えただけでも耐えられていた頭痛が更に増す。 「兎に角! ピアスはおにーちゃんが預かる」 「嫌だ!」 「What's the quarrel?」  俺達の言い合いが、居間まで聞こえたのだろう、あーちゃんと先輩が顔を出し、俺は理不尽なアニキの態度とこれまでの経緯を説明したら、珍しくあーちゃんが頭を抱え、溜息を漏らした。 「あのなぁ……今じゃ常識だぞ? honeyだって高校の時、ピアス開けてただろ?」 「愛咲陽!」 「え? アニキってピアスしてたっけ?」 「あー……謙吾は知らなくて無理ないか……高校の啓吾さんてなー」 「椿!」  いつもコレだ……過去の話になると、先輩とあーちゃんだけで盛り上がり、そんな二人を黙らせるようにアニキが全力で阻止をして、何も知らない俺だけが蚊帳の外。  慌てて先輩の口を塞いだアニキに、ちょっとイラッとし、それをあーちゃんに見られていたのか頭をぽんぽんされる。   「OK、I’ll tell you what……高校を無事に卒業したら俺が病院に連れて行ってピアスホールを開けさせる、brotherは二人の三回忌まで、このピアス以外つけない、それ以上の穴を開けない……Is this OK?」  勿論、俺は頷き、あーちゃんの提案には逆らうことができないアニキは、渋々だが納得し、無事にピアスは俺の手に収まった。 が……  ここで俺の疑問が過る。  二人が居なくなった今、この家にいるのはアニキと俺の二人……マイペースで過保護なアニキと二人?   そんな生地獄に耐えられるわけない!  あーちゃんに頭を抱えるアニキ、観念しろと慰めるあーちゃん、我関せずで椅子に座りスマホを見ている先輩……ここで言わないと俺は一生アニキから離れられなくなる。  溢れてくる生唾を喉の奥へと流し込み、三人の会話を止めるぐらいの声で告げる。 「俺、先輩と一緒に住みたい!」  
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