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俺、両親を亡くす
俺、ーー高津謙吾ーーの家は、小さな定食屋を営む両親と、大学を出て不動産会社に就職した兄の四人暮らし。
周りが羨むぐらい仲のいい家族で、特に母さんと父さんの仲は、子供の俺から見ても、思わず微笑んでしまうぐらい。
いつか俺にも家族ができたら、この家みたいに誰もが羨むぐらい、アットホームな家庭を持つ。
それが俺の人生計画だった。
バスケ部の練習を終え、家が近所の先輩と一緒に部活の話をしながら、家の前で来たところで、人集りを見つけ、先輩と顔を合わせる。
足早に近づいた俺達の目に入ったのは、サイレン灯を回している救急車と複数のパトカーが家を囲い、刑事ドラマでもみた黄色いテープには、立入禁止とKEEP OUTの黒い文字。
行ってらっしゃいと手を降って見送ってくれた両親の映像が脳裏をよぎり、群がる野次馬を押しのけながら、中に入ろうとした所で、仕事中に駆けつけたのであろう、先に来ていたアニキーー高津啓吾ーーが、俺を見つけて歩いてきた。
「アニキ! 何があったんだよ?! 父さんは? 母さんは?!」
「謙吾……椿、今日1日謙吾を頼んでもいいか?」
「無視すんじゃねーよ!アニキ!」
何度も叫ぶ俺を無視して、先輩と話を始めたアニキの腕を掴み、なんとか振り向かせたが、空いた手で俺を抱きしめ、「頼むから言う事を聞いてくれ」といったアニキの声が今にも泣きそうな声が、事の重大さを物語っている。
なんとかして中の様子を見ようとした所で、玄関から白い布を被せたストレッチャーが2台、救急隊員に囲まれながら、関係者の間を通っていくのがアニキの肩越しに見えた。
不安定な道を通ったため、振動で揺れたストレッチャーから、白い手がだらりと落ち、その指にキラリと光った指輪に胸がざわつく。
あの指輪…………母さん?!
手を伸ばし、駆けつけようと身を乗り出した身体を止めるアニキの力は、強く、俺は、救急車に乗り込むストレッチャーに向けて、叫ぶしかなかった。
「どけろ!母さん!母さん!」
「謙吾!」
胸が苦しい……
掴んでいたアニキの腕にしがみついた事で、背中を撫でた手の温もりと、両親の元に駆けつけられないもどかしさに、涙が溢れて止まらない。
何故、俺とアニキを置いて、二人は旅立ったのか、何故、苦しんでいたことを俺たちに言わなかったのだろう……泣きながら心のなかで、疑問の言葉を投げつけたくなる。
俺とアニキはこの先、どうなるんだろう……
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