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兄貴と俺は、そっくりだった。
1つ違いの年子で、双子じゃないけれど同じ学年。
幼稚園に通っていた頃はまだぎりぎり仲が良かった覚えもあるけれど、小学校に入ってから高校を卒業するまでずっと不仲なままだった。
何故かって?
お互い間違われるからだ。
「ねえねえ、彰君」
「俺、弟の久司だけど」
ここまでならまだいい。親でも間違えるくらいだ、仕方がない。
「なら久司君でいいや、ちょっと手伝ってよ! 廊下の掃除、人手足りなくて」
「ええぇ」
兄貴の代わりを努めることが、しばしばあるのだ。
兄貴と俺はそっくりで、なにからなにまで似ている。
外見だけじゃない、性格も特技も趣味も、なにからなにまで。だから代わりを務めることは造作もない。
おそらく兄貴も、俺の代わりをどこかでしているのだろう。
だけどやっぱり。
「よぉ久司、何だその面」
「鏡かと思ったぜ兄貴、冴えねえ面してよぉ」
自分が二人居るというのは、どうにも居心地が悪い。
そこで俺は、兄貴からなるべく離れようとした。偶然だか当然だか必然だか知らないが、兄貴も同様に俺から離れようとした。
ところが、二人の考えもそっくり同じすぎて、中学も高校もあの手この手で離れようとした結果、同じ学校へ入学してしまった。
クラスは別々だが、そっくりの兄貴と俺はすぐ学校でも知れ渡り、またセット扱いだ。
こうなれば大学はなんとしてでも離れよう。俺は兄貴と絶対に被らない進路を目指すことにした。
――絶対に被らないところ、海外しかない。
「兄貴、俺は留学するよ」
「……久司、お前もか」
「お前も……?」
兄貴の唖然とした顔。おそらく今の俺とそっくりなのだろう。
不仲なせいで、お互い口を聞いていなかったことが災いした。まさか兄貴も留学を計画していたなんて。
まさか、まさか、国は? どの大学だ?
案の定、兄貴と俺は同じ国、同じ大学へと進路を決めていた。
今更変更することもできず。
しかしどうだろう、異国の地、周囲には日本人も少なく、兄貴と俺はお互い頼れる相手が限られていたこともあって今まで以上によく話すようになった。
それだけじゃない。海外の大学は思った以上に苦労が多かった。毎日山のように文献を読んで、山のようにレポートを書かされた。
予定とは裏腹に、返って兄貴と俺は手を取り合い、まるで磁石のようにくっつき合うはめになってしまった。
――ま、授業をサボっても、どっちかが出席すれば上手いことごまかせたりするのはかなり助かったけど。
海外の講師に、兄貴と俺を見分けられる人間はいなかった。
完
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