花筏

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「ねぇ、聞いてる? 心中する前にさ、ちゃんと恋人になろうよ」 姉の声によって僕は回想から引き戻される。 戸惑う僕に対し、姉はこう語り掛ける。 「大学に入ってさ、いい加減に君への気持ちを忘れなきゃって思って、同級生の男の子と付き合い始めたんだけど、まさか君が私と同じ大学、しかも同じ学部に入学してくるだなんて思わなかったよ」 高校に進学した姉は、親の目を盗んで交際しようと僕へ持ちかけてきた。 血の繋がりも無いんだし、いずれはお父さんも許してくれるよ、と言いながら。 けれども、僕はその提案を受け入れることは出来なかった。 父親の言葉が耳から離れなかったのだ。 『姉と間違いを犯したならば、その時はお前を殺して俺も死ぬ』という言葉が。 そのことを説明したものの、姉は引き下がらなかった。 仕方無く、僕はそれとなく父親に話してみた。 もしもだけど、僕が姉のことを好きになってしまったらどうする?と。 冗談めかした軽い口調にて。 しかし、父親の反応は想像を遙かに上回る激烈なものだった。 その顔色を急変させた父親は、僕の胸倉を掴み上げ、怒気を孕んだ口調にてこう告げた。 「再婚するときに言い聞かせただろ! そんなことをしでかしたら、お前を殺してこの俺も死ぬと! 忘れたとは言わさんぞ!」と。 そんなことあるわけないと僕は父親に告げ、只管に謝った。 そして、姉はその様を物陰から覗き見ていたのだ。 僕も、そして姉も、お互いへの想いを押し殺して過ごしていくより他に無かった。 死にたいなどと姉が言い始めたのは、高校の3年になった頃だったと思う。 僕も、そして姉も苦しんでいた。 高校を卒業した姉は、難関であることで名高い私大へと入学した。 そして、大学の同級生の男性との交際を始めたのだった。 私が誰かと交際するようになったら、君も私のことを諦められるでしょ?と姉は寂しげに告げた。 けれども、僕はその時から狂ってしまったのだと思う。 姉が誰かのものになることなど絶対に許せなかった。 姉と同じ大学、同じ学部に入学すべく死に物狂いで勉強へと打ち込んだ。 そんな僕の様を見た姉は、彼氏との交際の様をわざとらしく話して聞かせたものだった。 何処にデートに行ったとか、どんな食事を一緒に摂ったとか。 そして、男女の関係になったとか。 けれども、その姉の言葉は、僕の狂奔を勢い付けるだけだった。 結果、僕は姉と同じ大学、同じ学部に入学することが叶ったのだ。
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