雨の日

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しかしここで「ペンダントを無くした」なんて言ったら「探してくれ」と言っているようなものじゃないか? 雨の中、いくら親切とはいえ昨日知り合ったばかりの人間に探しものをさせようだなんて、さすがに気がひける。 「──大丈夫だから、言ってみて」 まるで、迷子の猫に「あなたの家はどこですか?」と問いかける犬のお巡りさんみたいな口調だ。 だけど、目の前の男は、犬のお巡りさんにしては、健全な風ではなかった。 悪い意味じゃない。どちらかと言えば良い意味で。 雨に濡れた髪から、わずかに覗く紅茶色の瞳を眇めて、男はもう一度「言ってごらん」と即してくる。 「…ペンダントを」 「落としたの?」 「あ、ああ」 喘ぐように頷くと、その瞳がすぅと細まった。 「私も探そう」 自分で口を滑らせたとはいえ、予想していた答えが返ってきて乾いた笑いが漏れる。
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