雨の日

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急いでズボンのポケットを探すが、期待は外れた。 本来、首にあるはずの重みが消える。 大切なものは無くなってしまった後に気づくというが、ペンダントが大切だとは常々思っていたことだ。何といってもおばあ様の遺品なんだから。 気づくも何もない。 ただ、虚しい喪失感だけがどんより重くのしかかる。 「もう一度、道を探そうか」 丁寧に言われてしまい、どう反応すればいいのか分からなくなった。 この男は無くしたペンダントが僕にとってどれだけ大切なものなのか知っている風に探している。 他人にこんなにも親切にしてもらったのは久しぶりで、また乾いた笑いが漏れてしまった。 最後にもう一度、部屋の中を探すことになった。 さすがに部屋の中に入るのは憚られ「私はもう一度、アパート周辺と少し行ったところを探すから」と男は階段を下っていった。 部屋の中はせっかくゴミが無くなってすっきりしたというのに、ペンダントを無我夢中で探したせいで散らかり放題になっていた。 これでは探せるものも探せない。とにかくまずは手近にあるトートバックから、探してみるしかなさそうだ。 「……?」 トートバックの中を覗こうと持ち上げてみると、チャリンと金属の擦れる音がした。急いで中を見てみると案の定、ペンダントが当たり前のように入っていた。 額からタラリと汗が流れていく。何がどうなってここに入っているのかさっぱり思い出せなかった。 安堵している場合ではない。 すぐに立ち上がって、アパート周辺を探しているであろう男の元へ向かい、見つかったことを報告した。 「本当?それはよかったね」 心底よかったという風に言われて、ほんの少し心配になる。 この男はいずれ『僕の心臓がなくなりました。一緒に探してください』と頼まれて『では、私の心臓の1つでもあげましょう』とでも答えてしまいそうだ。 「他に困ったことはない?ペンダントはどこも壊れていなかったのかな」 『他に必要な内臓はない?治さなければならない内臓は?』なんて調子で聞かれているように幻聴してしまった。 慌てて首を振る。 「見たところ、どこも壊れていなかった。…探してくれてありがとう」 「それなら良かった、ちゃんと部屋に入ったらシャワーを浴びて服を着替えて、頭を乾かすんだよ。その傘はあげる。…それじゃあ、私は裏に用があるから。またね」 そう言って、昨日と同じあっさりとした様子でアパートの裏に回ってしまった。 本当に不思議な男だ。 大人なのに、なんだろう。 善良で礼儀正しい子供と話しているような気になる。 それでも時折、白い髪から覗く瞳には、大人の哀愁と深すぎる情が垣間見えもする。 よもや、あれが魔性というのでは…? 背筋がぶるりと震えた。
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