白百合の種

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白百合の種

「おや、おはよう」 「…あ、ああ、おはよう」 最近気づいたことだが、アパートの裏側にはいくつかの鉢植えがある。 寝室の窓辺から鉢植えは見えない。 男は手に如雨露を持って僕の方を見上げて笑った。 たまには朝日でも浴びてやろうと思って寝室の窓を開けたら、偶然目が合ってしまったのである。 不快には思わなかったけれど、ほんの少し気まずいと思うのは、僕が自意識過剰だからか? 男の方は気まずさをこれっぽちも感じている様子はなく、ニコニコと口角を上げて、花に水をやっている。 「よければ、ほんの少し降りてこないかい」 あんなに迷惑を掛けたのに、どうしてまだ僕に構おうとするのか。全く理解できない。
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