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※ついでの一文!
「かーごーめー……かーごーめ……籠の中の鳥は……」
引き摺る剣が地面で摩擦を起こす金属音と、小さく口ずさむ歌声が暗い洞窟の中に響く。それに混じるぺちゃ…ぺちゃ…と、粘着質のある音は辺りに無惨に広がる骸の赤い血だ。
剣で切り伏せた際に飛び散った血飛沫は地面を彩るだけに留まらず、かつて莫大な聖力を宿す聖女として一身に集めていた敬愛、敬仰、希望、それらに満ちた瞳を恐怖に平伏せさせるには十分に全身を濡らしていた。
脳裏を焼き尽くすように刻み込まれた絶叫と絶望が胸を深く抉り裂き、檻のように離れる事はない。
『どうしてですか聖女様……なぜ我々を裏切るのですか……ッ?』
驚きと恐怖に瞳孔が開いた瞳を力を失くすまで向け、強く衣服を掴んでいた手の感触が生々しく残ったまま褪せる事もない。
「なーに……なーにを想う……」
ずっとわからずにいた。突然異世界に”聖女”という馴染みのない存在に祭り上げられ、それでも懸命に理解しようと尽くしても明確な答えは出ないまま漠然と求められるままに生きようとした。
だが、ようやく理解したのだ。胸に在り続ける痛みと、脳裏を焼けつくす光景が私に全てを教えてくれた。
聖女として幾度と声を張り上げようと、彼らの知る聖女として生きようと。所詮それは長年の歴史が創り出した類のある聖女に過ぎない。世界は何度滅びかけようとも歴史を変えることはなかった。
――彼らの知る聖女では、この世界を救う事はできない。
「全部……全部壊すわ」
世界が生まれた頃に。全ての生物が手を取り合わなければ生きていけぬ世界の姿になるまで。
籠の中の鳥は、籠の中で新たな世界を創り上げる。
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