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そしてある日、大手ゼネコンの贈収賄事件が起きた。
捜査の結果、十和子の夫の会社も事件に関与していることが発覚した。
丁度その頃、早紀子は少しずつ貯めてきた頭金で念願のマイホームを手に入れていた。
十和子は夫が逮捕され、この暮らしがもう立ち行かなくなっているの知った。
その時の気持ちは、夫のこれからを心配するより、自分のこれからの生活はどうなるのか?だったのだ。
早紀子にそれを指摘され、はたと我に帰る十和子にもう残されたものは、何もなかった。
多額の負債を残し会社は倒産。
自己破産するしかなかった。
十和子が内心、蔑んでみていた早紀子は、十和子に対して何も変わることはなかった。
貧乏は嫌だ。
姉の早紀子のようにはなりたくない。
私は勝者だ。
回りに当たり前のようにあった贅沢な暮らしを失って初めて、自分の傲慢さに気づいた。
最後に残ったのは、早紀子の温かい手が背中をさすってくれたぬくもりだけだった。
それは幼い頃に、泣いている十和子をいつもかばってくれた早紀子と何も変わっていなかった。
「お姉ちゃん…」
「ん?…大丈夫よ」
早紀子の温かさがだけが今、残されたしあわせだと今更ながら、知る十和子だった。
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