可愛い女の子になりたかった

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そして今に至る。 チークを塗り終えた姉は、楽しそうに口紅を塗ってくれている。 「やっぱりこのオレンジレッドね。はい、完璧。ほら、見て見て!」 そう言って向けられた鏡。恐る恐る視線をやり映った姿に驚く。 短い髪はふわふわロングのウィッグで隠され、一重の目はくっきりとした二重になっておりいつもの何倍にも見える。オレンジとブラウンでまとめられたメイクも、きつい顔立ちを柔らかく見せてくれている。 どこからどうみても可愛らしい女の子だ。 音が鳴りそうな睫毛をまたたかせて姉を見上げると、得意そうな顔で微笑んでいた。 「ね? 可愛いなんてどうにでもなるのよ。アタシにもできたんだからアンタにもできるわ」 「……うん」 またしてもこみ上げてくる涙を必死で我慢する。この魔法が解けてしまわないように。 そんな私の手を姉が優しく引く。 「せっかくだから、服も着替えようよ。この前買ったワンピース貸してあげる!」 ウキウキと渡されたのはカーキ色のハイネックのワンピース。高鳴る胸のまま、制服を脱いでそれに着替える。 「……どう?」 「最高に可愛い」 長い指でピースしてくれた姉に笑顔を返す。ひらひら揺れるスカートが嬉しくて何度も腰をひねった。 「ねえ、これ着てみてもいい? 久しぶりに着てみたい」 先程脱いだ制服を手に取って姉が問いかけてくるので了承する。 「いいよ」 「やった。八年ぶりだ。アタシ達の時と全然デザイン変わってないね」 懐かしそうにブルーのアイシャドウで彩られた目を細め、八年前は兄だった姉は学ランに袖を通した。
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