青褐のカンパネルラ

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 彼女は目を覚ますと、さっきからゆらゆらゆらゆらと、何かに乗って揺蕩っていました。起き上がるとそれは木の板を組み立ててできた小舟でした。  小舟は青い天鵞絨のような夜空を映した水鏡の中を、当てもなく進んでいました。空には白や黄や赤に輝く星々が蛍のようにちかちかと光っていて、それもまた、水鏡の中で光っているものですから、まるで自分が青宝玉に閉じこめられているようでした。風が吹くたびに水紋に星光が震え、再び元の姿に戻るのです。  彼女は目の前に座る黒い人影に気がつきました。影と目が合ったと思うと、その人物は見知った人でした。彼女が問おうとしたとき、彼の声が重なりました。 「茜さん、あの星はなんていうの?」  彼の指先を辿ると、黄玉と藍玉の燐光が風見鶏のように、くるくるくるくる周っていました。 「あれはアルビレオだよ。デネブと対になるところにある二重星。……そうか、これは天の川なんだね」  一際目を引く菫青色の光の帯が水平線までのび、それは水鏡のなかで銀砂を撒いた一本道のように、どこまでも続いているのでした。小舟はその銀砂の一本道を辿るように進んで行きます。橙や青白い光がてんでばらばらに瞬き、小舟が通るたびに水鏡の中で星光が震えていました。 「一度でいいから銀河鉄道に乗ってみたかったんだ。これは鉄道じゃないけど」 「でも素敵だね。星空を映す水鏡の上を旅するの。あっ、流れ星だ」  彼は小舟から身を乗り上げて、次の星が流れるのを待っていました。茜も静かに待っていますと、白い織女星が天頂付近で、その光輝を降らすように輝いているのを見つけました。それをただじっと見ていますと、星は白く長くのび、光線を引いたと思ったその刹那、光が降ってきたのです。まるで雪のようだと茜は思いましたが、それは水面に積もることなく、溶けてしまいました。しかし、いくつかの光は茜の頭よりずっと高い場所に留まり、アーク灯のように小舟の行く道を照らしています。  二人はこの小舟がどこへ向かっているのかわかりません。
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