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小舟は睡蓮の間を魚のように進み、アーク灯の雪明りも溶けきると、瑠璃が深まる青宝玉の水平線が俄に赤くなりました。それは紅玉よりも鮮やかに透きとおり、琥珀色の火の粉が舞い上がる夜空を秋の暮のように染めました。昴が茜に聞きました。
「あれはなんだろう。燃えているね」
「きっとアンタレスだよ。蠍の心臓が燃え上がっているんだ」
夜空を染める赤いサーチライトは、菫青色の光の帯に柘榴色の光輝を吹きかけ、茜には二つの星団が混ざり合っているように見えました。
「私の心臓も死んだら燃えて、あの銀河に届かないかな」
ポリネシアの士人は自分が死んだら住む星を決めるのだとか。茜もそう信じていますが、彼女はまだ、自分が死んだら住む星を決めかねています。
琥珀色の火の粉が風に流され小舟を包み込むと、それは天燈のようでした。橙に揺らめく炎が天に昇っていき、水鏡にも揺らめいて水平線の彼方まで続いているのです。茜は一つの天燈に手を伸ばし、触れると弾かれ、ゆっくりと天に昇って行きました。茜はその光景を憧憬を抱いて眺めていました。
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