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「なんで私が死んだら星になりたいか、教えたことあったっけ」
「聞いたことないかも」
「……私は自分が無くなることが怖いんだと思う。私が死んで、私の存在がこの世界から無くなって、誰かの記憶にしか残らなくなる。それがすごく虚しく感じるんだ。だから、私の魂を移す場所がほしい。星もいつかは消えちゃうけど、星は悠久に例えられる。それに」
茜は昴の手を握りました。そして、真っ直ぐに彼の姿を捉えます。彼の瞳に天燈が灯り、その美しさに茜は見惚れてしまいました。
「私が死んでも、この広大な夜空のどこかに私がいることを知っている人がいる。それだけで、私は死ぬことが怖くなくなるの」
言葉にこもった熱が繋いだ手を通して伝わります。昴は茜の手を握り返し、真っ直ぐに見つめられた瞳の主に言いました。
「おれも、茜さんが死んだら星になることを信じてる。だからそれまで、君の死を見届けるまでは君と友人でいたい」
「死んでからも友達でいようよ。ねぇ、昴くん。私たち、どこまでもどこまでも一緒に行こうね」
秋の暮れの空が、ぱっと白く明るくなりました。水平線を見やると月長石のような白光が瑪瑙のように波打っていました。白光は青宝玉の夜空を覆い、水鏡に映る星々をもかき消していきます。朝がきたように世界が白み始めます。
「朝がくるたびに、今日死ぬのかなって毎日思うよ。でもこんな夢を見た後なら、死んでもいいかもしれない」
茜はそう言いながら振り返って見ましたら、そこに彼の姿はなく、曙色の水平線が紅碧と階調を作っているだけでした。孔のように空いた空間を見つめ、茜は立上りました。
「その前に死んだら住む星を決めないとね」
茜は立ち上がり、片足を小舟の外に出しました。そしてそのまま、小舟の縁を飛び越えて白い薄明が包む世界には誰もいなくなりました。
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