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澄んだ群青を広げた空が煙っています。
花火は枯れ、あんなに賑わっていた露店や、河原なんかももうすっかり人気をなくし、青褪めたように寂れてしまいました。彼女は病室の窓から蜃気楼のようになった空をキョロキョロと見渡して、空に光るあれを探していました。
「八幡さん、もう消灯のお時間ですよ」
彼女の背後から女性の声がしました。ノックの音にも気がつかず、また、女性がこちらへ近づいても、彼女は振り返りはしません。
天地を隔てる煙が、境界線のように風のない中を漂い、それがようやく薄れてきたというのに。彼女は窓の外を見つめたまま言いました。
「やっぱり星を隠すから花火は嫌い。」
彼女は窓辺から身を翻し、ベッドに飛び乗りました。そして、そのまま身を預けました。
「一度でいいから銀河鉄道に乗ってみたい」
「それならちゃんと寝て病気を治してください。起床は六時です。おやすみなさい」
淡々と述べて、女性は早々に病室を出て行ってしまいました。しばらくして女性の足音もついに聞こえなくなり、彼女はまた一人になりました。
「私の病気が治らないこと知ってるくせに、そんなこと言っちゃうんだ」
どこにも行けなくても、誰かの何かになれなくても、空に光るあれさえ見つけられれば、この命が千夜を越えずとも惜しくない。
彼女は仰向けになったまま、空に手を伸ばしました。そのまま空を掴み、マッチに火がついたように、ぽそっと呟きました。
「どこまでもどこまでも一緒に行こう」
そしてそのまま目を瞑りました。
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