序章

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翌日電話を掛けてもやっぱり繋がらないことに、心配、焦り、苛立ち、憂患、動揺で頭と胸がパンパンになっていく。俺は人生で初めて、ため息というものの必要性を感じた。パンパンになったものを吐き出さないと呼吸が出来ないのだ。 その日の夕方、出張の荷物を持ったまま由奈の部屋に行くと 「…これ…最悪の事態じゃねぇか…」 ドアが外から施錠され、管理不動産会社のタグがひらひらと付いている。脱力など簡単なものではない…自分が魂を抜かれたように力尽きるのを感じるが…ガタッゴトッと自分の荷物が足に当たって落ちたことで動き始める。 俺が部屋の鍵を持っているのだから、由奈がここを出た時に鍵の返却本数不足で管理不動産会社と何らかのやり取りがあったはず。スマホを手にして、目の前で挑発的にひらひらするタグにある番号をタップするが、最後の番号を入力する前に止める。契約書を見ていないからわからないが可能性として、退去時の鍵返却本数不足は紛失者…今の場合は由奈が代金を負担して鍵の交換をする。その場合、俺が電話しても管理不動産会社にすればいらない鍵だから処分してと言われておしまいだ。個人情報を漏らすとは思えないが、電話よりは望みがあるかと思い、すぐに管理不動産会社へと行った。 「退去日などはお答えしかねます」 「鍵の交換は済んでいるので、それは使えませんよ?こちらで処分しましょうか?」 チッ…管理不動産会社からの情報という希望は絶たれた。由奈の実家は山梨県だということしか知らない。友達とは会ったことがあるが連絡先を知らない。由奈の会社に聞いてみるしかないか…
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