喪失と消失

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真郷は少しぶっきらぼうな口調だが、とても優しくて小まめな人だった。 出張に行くこともある彼だけど、毎晩電話をくれる。帰って来る日は少しでも顔を見せてくれる。平日の夜に食事に連れて行ってくれる時には、いろいろなお店を調べて連れて行ってくれるので、私の興味は尽きない。 食で言うと、真郷はかぼちゃ以外にも、しいたけなど苦手なものがいくつかあった。彼がしいたけを前にして 「ペンギンの肉にしか思えない」 と眉間にシワを寄せて言った時には、うまいこと言うと思って私は大笑いしたんだ。でも、私が家で作るものは 「いける」 と言って食べられるようになった。ちなみに、彼がしいたけを克服したのは甘辛く煮詰めたものだった。真郷が‘ペンギンの肉’と言ったから、しいたけの白黒が気になるのかと思って真っ黒に煮詰めたのだ。すると、彼は白米に乗せて食べるようになり、刻んで卵焼きに入れても 「いける」 と澄まして食べてくれる…ほんの僅かに口角を上げて。 週末には、テーマパークから日帰り温泉までいろいろなところに連れて行ってくれるし、私がお弁当を作って、ただ近くの公園へ歩いて行って二人で食べるような日もあった。真郷の仕事がハードそうな時や、体調が悪そうな時には自分の知識をフル活用して、彼に食べてもらうものを準備することもあった。 どれも楽しくて…楽しいだけでなくお互いに思いやり合って‘愛している’という自覚も‘愛されている’自覚も持てるようになってきたころ…ある1通のメールを受け取った。
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