喪失と消失

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「雨宮さんは狭間さんの仕事をご存知ですか?」 「はい」 「本当に理解されていますか?」 「…どういう意味ですか?」 「狭間さんは個人で億単位の仕事をされています。経営者思考、独立思考があるのでしょうね。上司も部下も持たないワンマンプレーを、社内で皆が認めています。さらには狭間さんが独立すること、もしくはディベロッパーへと転出することも近いと感じている。素晴らしいステップアップです」 独立なんて聞いたことがないし、ディベロッパーが何かも私は知らない。 「ディベロッパーって何ですか?」 「それです。それだから…雨宮さんは狭間さんの足を引っ張らないように別れてください」 「別れません。わからないことは真郷に教えてもらいますから」 そう言って立ち上がった私に小嶋さんが言った。 「食事が作れるだけで彼を支えられると思っているなら大間違いですよ、雨宮さん。食についてはプロかもしれないけれど、その他の知識は高卒というのでは一流の男性を支えることは出来ない」 「では…小嶋さんなら支えられると?そういうお話ですか?」 「もちろんです。両親もこの世界でずっと働いていますし、特に父は海外に進出した大手ディベロッパーの幹部なんです。うふふふ…きっと狭間さんは、人に引っ張り上げてもらわなくたって活躍の場を広げるでしょうけれど」 それは小嶋さんの言う通りだと思う。真郷を理解しているということ? 「マルチリンガルの私なら世界中どこに行っても狭間さんを支えることが出来ますし、独立されても一緒に仕事は出来ます。うふふふ…食事は栄養士でもシェフでも雇うことはいくらでも出来ますよね」
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