喪失と消失

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私の知らないことや考えたことのないことを聞かされても、真郷に聞けばいい、真郷に教えてもらうと思うだけでダメージではなかった。ただ…私が彼を思いやっての料理というのは、独りよがりなのかもしれない。 真郷との付き合いはもうすぐ3年になる。私も社会人5年目の大人だ。 私と真郷の今後を考えるきっかけをもらったと思って、きちんと考えてみよう。何でも彼に聞けばいい、教えてもらえばいいというものではないのかもしれない。私は私の立場で物事を考えるべきだね。 そう思った私は、この1通のメールと小嶋さんに会ったことは真郷には言わずに、いつも通り仕事をし、彼とも会っていた。 そのまま何事もなく過ごしたのだが、10日ほどして再びメールを受け取った。 ‘狭間さんは専務のお嬢さんを選ばれたようですね。ご結婚されるとお嬢さんから伺いました。それなら私も納得出来ますし、狭間さんのことはきっぱり諦めます。雨宮さんにも私の話をご理解いただけたようでありがとうございました。才能ある方の可能性を潰さないでいられたことに安心いたしました’ 小嶋さんの話を理解した?別れたと思っているの?真郷が専務のお嬢さんと結婚?どういうこと?こうなっては私も一人で考えていてはどうしようもない。 「真郷、会社の人と結婚するの?」 「由奈のことならイエスだが…会社って湯川の?」 「うん」 「何だ、それ?食堂のおばちゃんの噂話か?」 「うん…」 「私と結婚するって言っておけよ、由奈」 そう言って甘いキスをする真郷が他の人と結婚するはずがないんだ。だから、これだけなら大丈夫だったんだ。
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