喪失と消失

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私がそれを聞いたのは、2時過ぎだった。その日は湯川不動産の食堂で発注、納品の確認をしたあと調理員さんの不足している他の会社へヘルプに行っていた。私がいない時には、私と同じ太陽フーズ社員の調理師さんが責任者となり、調理員さんのことも食堂全体も見てくれる。 このクレームは明らかに調理器具等と異なるプラスチック片だと分かったから、そう慌てることはなかったと言う彼女は、一応スープの提供はストップし社長に連絡して営業を続けてくれた。すぐに駆けつけた社長もクレームのあったままおいてあるスープを確認して、調理器具や調理場にあるプラスチックでないことを確認して悪質なイタズラだと判断した。 小嶋さんはクレームを付けてきたが、スープを返却した以上に騒いでもいなかったらしいので、朝の私の言葉に対する嫌がらせだと私は思った…彼女に嫌みを含む返答をしてしまったことをこれほど後悔するとは…最悪だ。 営業終了の15時ごろ、湯川不動産へ戻ると社長から明日以降も通常営業でいいと言われ、私は調理員さんたちと一緒に片付け、清掃をする。 「イタズラだって言っても入れた現行犯じゃないし、お客さんを吊し上げられないんだねぇ」 「異物混入って部分だけ耳にした人には、うちの印象悪いわよね」 「掃除だって、身支度だって毎日こんなに気をつけてやってるのに気分悪い」 「長い間調理スタッフをやってきたけどこんなの初めてだわ」 「私もよ。ほんと嫌になるわねぇ」 手を動かしながら口も動かす皆さんの言葉が突き刺さる。本当に申し訳ない…私のせいなんです。
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