喪失と消失

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小嶋さんは口元に薄く笑いを浮かべているが目は全く笑っておらず、私の質問を無視するのかと思うほど黙っている。 「私、小嶋さんに嫌がらせをされるほど接点はないんですけれど」 「そうよね。ごめんなさいね、雨宮さん」 ごめんなさいの‘ご’の字も感じない音と表情に‘安っぽいドラマか漫画で出てくる嫌な女の人の典型的なパターンだ’と頭の片隅で思う。私はそれらの耐え忍ぶヒロインのようにはならない。今朝みたいにはっきりと考えを伝えて、おかしいのはあなただと伝える。 「理由を教えてくださ…」 「雨宮さんのことが気に入らないの、私」 私の言葉尻に被せて小嶋さんが答える。 「そうなんでしょうけれど…その理由を教えてください」 「あなたの存在が気に入らない」 これまでの人生で聞いたことのないような言葉に驚きと混乱、怖じけを感じる。 「…そんな悪意を向けられる意味がわからない」 そう言いながら涙が込み上げそうになり、熱いそれが喉元へ上がって来る前にゆっくりと飲み込む。 「雨宮さんにすればそうでしょうけど私にすれば、それも気に入らない。あなたは他所の会社へ男を探しに来たの?何もわからないフリしてやっていることはやっているのよね。しかも、ただの給食要員が狭間さんのようなハイスペックな男と?勘違いした挙げ句、彼の足を引っ張って楽しい?」 いろいろな言葉で攻撃されていることは分かるが‘ただの給食要員’という言葉が、とても腹立たしいような悲しいような気持ちにさせて私をへこませる。 「あっ…湯川専務、お疲れ様です」 私の混乱と戸惑いを放置して、表情をにこやかなものに変えた小嶋さんが私の後方へ頭を下げた。
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