喪心と消沈

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母をファミレスまで送ったあと、スーパーで買い物をする。平日の昼間のスーパーの雰囲気は夜とは少し違うな、と思いながらかぼちゃが目につく…かぼちゃはいらない。今日は涼成(りょうせい)のリクエストのコロッケだからじゃがいもを買うのよ。 涼成の言う‘和風コロッケ’は、茹でて潰したじゃがいもに鯖味噌缶を汁ごと入れて、刻み大葉を混ぜたものに衣を付ける、超簡単な味付けいらずのコロッケだ。副菜はブロッコリーとマイタケのニンニク炒め、お味噌汁には冷蔵庫の残り野菜をたっぷり使い厚揚げを買って加えることにする。あとは、フルーツや牛乳、パンなどを次々とかごに入れる。 明日土曜日のお昼にはお見合い相手の丹上颯斗(たんじょうはやと)さんと会うことになっている。丹上さんとは、私が実家に帰ってすぐに1時間ほど一緒に珈琲を飲んだ。二人ともまだ打ち解けているわけでなく緊張しているが、一生懸命話題を見つけて私が退屈しないようにとして下さる気持ちは伝わってくるので、お見合い結婚はこうしてお互いが歩み寄って行くのだろうと漠然と考えている。 「由奈、あまり食べてないな…昨日もだっただろ?」 「そう?食べてる、食べてる」 「やっぱり…お見合いが嫌なんじゃ…」 「お父さん、気にしすぎだよ。大丈夫。明日、丹上さんとオークワイナリーの見学試飲に行くの」 「あら…由奈、そうなの?」 「うん。13時からのコースの予約をしてくれたってメッセージもらった」 お父さん、大丈夫だよ。私は大丈夫。真郷を忘れられるはずはないけれど、自分の決断を無駄にしないで新しい生活を作っていくから。いつになったら一人で流す涙が枯れるのだろうとは思うけれど。
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