喪心と消沈

5/11
6042人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「俺、湯川専務とは親しいんです。親しいというのは…個人的に付き合いがあるわけではありませんが、俺が部署に所属せずに自由に用地売買に飛び回れる環境を整えてくれた人です。年齢は親ほどの人ですが、俺が会社内で腹を割って話せる信用できる数人のうちの一人です」 「そうですか。これも狭間さんに預けます」 南社長がデスクの引き出しから取り出したのは、小さなジッパーつきのビニールだった。日付とスープという文字がマジックインキで書かれたそれは… 「ボールペンのふたが割られているようなんです。湯川さんの社内で使われているものか調べていただけると思うので預けます」 「分かりました。この件は太陽フーズさんも被害者ですから」 「そうですが…一番の損失は雨宮ちゃんが辞めたことです」 「俺も…こうしているうちにも由奈がどうしているのか…本当に誰かと結婚してしまうのか…気が気でないですが、まず出来ることからやるだけです。湯川専務と同時に弁護士に相談しますので、太陽フーズさんから訴えられる罪状などの確認もしておきます」 車に戻ると由奈のパソコンを大切に抱きしめ専務に電話をかける。 「専務、悠長に挨拶している場合じゃない。30分で行くので弁護士、牧野先生を呼んで待っててください。他の人の同席はなし。専務と牧野先生と俺で話がしたい。お願いします」 パソコンをそっと撫で、助手席に置くと 「由奈、ごめん…一人で泣いてるだろ?探すから…必ず探し出すから待ってろ。俺が迎えに行くまで待ってろよ」 そう呟き、湯川不動産本社へと向かった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!