喪心と消沈

8/11
6041人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「狭間さん、よく聞いて」 牧野先生はプラスチック片を手にして俺に言う。 「これは太陽フーズさんから届け出てもらって信用毀損罪、虚偽の風説を流布、又は偽計を用いて人の信用を毀損した者は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金というものに問えると思います。信用毀損罪は、実際に信用毀損の結果が生じていなくても、人の信用を害するおそれのある虚偽の風説を流布することで成立する。彼女の行為は誰かの体調や命を脅かすものではないので、この罪状が当てはまる。その上で会社は、法に反した行為、社会秩序を乱す行為をした者に懲戒解雇を言い渡すことになります。だが、会社が懲戒解雇を言い渡すのは簡単なことではない。弁明の機会…弁明の機会というのは従業員本人を呼び、問題行為について企業として懲戒を検討している旨を伝えるとともに、懲戒処分の検討について本人の言い分を聴くというプロセスなどが必要になる」 懲戒解雇は労働者に罰を与えるための解雇のことで、労働者に科されるペナルティの中でも極めて重い処分。通常、企業は労働者を何の理由もなく解雇できないが、従業員としての義務や規律違反といった企業の秩序維持を乱す者に対しては、懲戒解雇が認められている。再就職への影響などから、労働者にとっての‘死刑宣告’と例えられることもある。 「その手順は、会社としては湯川専務が担当者になって私と連絡を取り合いながら進めるということでよろしいですか?」 「はい、責任持って最後まで担当します」 「お願いします。これが手順と見越せる結論です。でも、狭間さん」 「…はい」 「法や秩序じゃなく、君は小嶋さんが何をどう言って…由奈さんが何をどう言って、どう思っていなくなったのかが知りたい。だろ?」 「はい、知りたい」 「だから、懲戒解雇を言い渡す前に聞き取りをする。太陽フーズからメールの提出があったと言って聞き取りをする。その後、太陽フーズさんと湯川専務が動く」 「でも…俺は一言も発してはいけない?」
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!