喪心と消沈

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「それは絶対です。狭間さんはこの件について知らない…何も言わない。由奈さんのためです」 「由奈のため?」 「そうです。この件は太陽フーズさんから湯川不動産へ知らされた話で、小嶋さんは太陽フーズさんから訴えられ湯川から懲戒解雇を言い渡されるというシナリオを徹底させたい。狭間さんは由奈さんを手元に取り戻すつもりですよね?」 「当然です」 「もし狭間さんが小嶋さんに、由奈さんを思う余りの言葉を発したとして…それは由奈さんがここに戻ってきた時に逆恨みされかねない。こういうタイプの人にはよくあることです。個人的な感情は一切入っていない、あくまでも社会的常識によって裁かれたという印象しか残してはいけないんです」 「…由奈のため…」 「憶測だが…雨宮さんも狭間くんのためと思って姿を消してしまった気がするね」 「私も湯川専務と同じ推測です」 俺のため… 「間違えてんじゃねぇよ…由奈」 頭を抱えた俺に 「由奈さんは間違えてませんよ。彼女の中でその時の最善を選んだ結果です」 「牧野先生の言う通りだよ、狭間くん。跡形もなくいなくなるなんて…どれだけの決断だったか…娘を持つ親としても胸が痛むよ。誰にも言えなかったことも、姿を消してしまったことも、責めてはいけない」 二人が前屈みになって言い聞かせるように言った。 「小嶋くんのことは任せてもらうとして…狭間くんは雨宮さんをどうやって探すんだ?」
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