喪失と消失

1/16
6036人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ

喪失と消失

俺は会社内で少々特殊な立場で仕事をしている。どこの部署に所属するわけでなく、徹底した個人プレーが許されている。それは、それだけの実績を積み上げたからに他ならない。 用地仕入れというのは買い取って終わりではなく、必ず出口戦略を考えなければならない。出口戦略とは、その物件を仕入れて利益は出るか?ということだ。単純に考えた場合、500万円で仕入れた土地を、1,000万円で売ることができれば500万円の利益が出る。 その数字を人の何倍も積み上げた結果、上司も部下も持たずに個人で動くことと、必要に応じて営業などの社員を使ってもいいと言われている。 だから俺の出張の予定が少々変わろうが、出勤してなかろうが誰も気にせず、いつも通りどこかの地主訪問しているか、家から電話をかけ続けているか、不動産業者のネットワークを使って情報収集しているか…など思っているだろう。ちなみに、同業者を使うというのは、買取を自社で行わない会社もあるからそういう会社から情報を優先的に回してもらうために日頃からコミュニケーションをとっておくのだ。 俺は翌日、由奈の勤めていた‘太陽フーズ’を訪れ、社長に面会を求めた。30分ほど待たされたのち、社長の南和之が会ってくれた。彼は由奈の卒業した専門学校の出身者で、同じ専門学校の卒業生を積極的に雇用していると由奈から聞いている。 俺は名刺を渡し、突然の訪問を詫び、面会の礼を伝えると 「うちの会社を担当していた雨宮由奈が退職したと聞きました。理由を教えて頂けますか?」 俺より10歳ほど年上かと思う南社長を真っ直ぐに見て聞いた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!