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「社員の退職理由を口外するつもりはありません」
そうだろうな…だが、何一つ分からないままでは俺も引けない。
「私事をお聞かせして申し訳ありませんが、俺と由奈はもう3年ほど付き合っています」
俺がそう言うと、南社長は
「…それが何か?」
一瞬の間を置いて言葉を吐く。今の間は?
「口で言うだけでは信用性がありませんよね」
今の間に関係するかどうかはわからないが、俺はスマホを出して由奈と俺が二人で写る写真を何枚も見せる。
「十分です。付き合っておられることは分かりましたが…それならここに来られなくても雨宮ちゃん…あっ…みんな雨宮ちゃんと呼ぶんです、すみません。雨宮さんから話を聞かれたらいいのでは?」
「雨宮ちゃんで大丈夫です。由奈からも聞いていますし、調理員にもそう呼ばれていたので、うちの社員も雨宮ちゃんと呼ぶんで…俺の出張中に異物混入騒動があって…それも彼女は言わなかったけど…一昨日から連絡が取れなくなり、昨日急遽帰って来たのですが…由奈は消えた…何があったのか知りたいんです」
「消えた?」
「部屋を退去して電話番号も変えているようです」
「そうですか…そうでしたか…」
南社長はしばらくテーブルの上の俺の名刺を見つめて黙ったが、ようやく口を開く。
「異物混入は雨宮ちゃんに責任はないんです」
だろうな。そう思ったが最後まで話を聞くことにする。
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