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「先輩、先輩、この写真見て下さい!」
星宮部長が民俗学部の部室に入ると、部員の文庫瑠璃が駆け寄って来た。
スマホを取り出して1枚の写真を見せ様とする。
「ん、何だ?また宇宙人の写真か?」
「いえ、妖怪アマビエの写真です」
「あの、疫病避けの妖怪か?」
「はい、アマビエが描かれた護符を持ってるだけで感染を防げるという、あのアマビエです!」
「何処で撮ったんだ?」
「近所の御寺です」
「効果はあったのか?」
「効果はあった、というか、僕の出生からして疫病には強く、それを改めて知らされました」
「出生?お前自身がアマビエとか?」
「違いますう、僕はただの人間です。でも亡くなった父親の遺言を思い出したのです」
「どんな遺言なんだ」
「父親が運転する車で伊豆にドライブに行った時、父親が何気なく言ったのです」
(此処には土蜘蛛一族の財宝が眠っている)
「沼津市にある、淡島を指差してそう言ってました。淡島神は万病平癒の御利益で有名な神様です」
「そうだな。其処に、金か何かが隠されているのか?」
「いえ、コルチコステロイドです」
「はあ?あのコロナウイルスの治療薬として効果のあるステロイドか?」
「はい、この写真も見て下さい
アマビエの他に、もう1枚写真を見せる。
「最近、近所の神社で撮影した写真です。本殿を撮った1枚ですが、私が写る筈のガラス扉に大きな岩が写っているでしょう?これ、淡島で祭られている亀石という岩倉にそっくりなんです」
「お前が亀石だと云う事か?」
「はい、僕の父方の家系は伊豆の賀茂郡の漁村で、淡島の祭事を取り仕切ってきた家系だから、淡島と縁があるのです」
「縁があるから財宝の伝説が伝わっているのか?土蜘蛛一族と云うのは、安倍晴明の子孫の一族だな。確か陰陽師の安倍晴明は賀茂氏の出身だった筈だ」
「だから、同じ賀茂郡の私の家系に財宝伝説が伝わっているのかもしれません」
「で、財宝と云うのはどんな御宝なんだ?」
「亀石、つまり僕です。えっへん」
文庫瑠璃は自慢気に笑った。
「お前は金でも銀でもないだろう」
「財宝は、此処にあります。僕のお腹の中です。僕は副腎に良性の腫瘍を患っているのです」
「腫瘍が何故財宝なんだ?」
「副腎の腫瘍は、コロナウイルスの治療薬として名高いコルチコステロイドを分泌する事で知られています」
「なるほど、ここでさっきのアマビエと繋がる訳か」
「アマビエは、僕がコロナウイルスに打ち勝てる腫瘍を持っている事を気付かせるために出現したのです」
「ふん、パンデミックを生き抜けて良かったな」
「先輩にも、アマビエの写真をプレゼントします。持っているだけで疫病から護ってくれる御利益があるそうですから」
「その都市伝説みたいな妖怪学は本当なのか?嘘だったら、追及するぞ」
「嘘だった場合はコロナウイルスで死んでしまうから、僕は追及されません。
じゃ、来世で、また会いましょう」
「覚えてろよ、糞ガキ」
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