「許さない」

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 雨が降りしきる中、うつ伏せに倒れた父と母の体は折り重なり、まるで一体の彫像のようだった。  屋敷の庭の花園では薔薇が盛りを迎えていた。その芳香に、異質な鉄さびた血の臭いが混じっている。二人から流れ出る鮮血は血溜まりとなって地面をどす黒く染め、既に彼らが事切れていることを否応なしに見せつけた。  驚きと、恐怖と、悲しみと、混乱と。早鐘のような鼓動が耳の奥で鳴り響き、喉からは忙しない呼吸音だけが漏れる。目にする光景が信じられず、瞠目してその場に凍りついた私は、そこでようやく、父と母を見下ろしている人物に気づいた。  リオン。  雪のような白い肌と蜂蜜色の金髪をもつ、美しき碧眼の青年。  私にとって兄のような人。――兄と慕っていたはずのバケモノ。  リオンは呆然と立ち尽くす私を一瞥し、そしてまた足元の二人に視線を落とす。 「……僕がやった。すまない」  囁きのような謝罪に、目の前が真っ赤に染まった。  バラバラに散らばっていた私の感情は一点に収束し、彼へ――両親を殺した吸血鬼への、底知れぬ憎悪が全身を包んだ。 「絶対に、許さない……!」
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