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まさに言う通りだった。シウは身なりを整え、海を背にして座るサイリのほうへうつ伏せた。サイリはショートパンツのチャックを開ける。水気を含んだ衣服は砂だらけだ。帰ったら、セトに二人分のクリーニングを頼まなくてはいけないだろう。
代わる代わる舐め合い、疲れきった頃には着衣がすっかり乾いていた。顔を上げたサイリが無意識に髪を振り払うと、こめかみの辺りにできた傷痕が露になった。痛々しいその傷は、まだまだ治る気配はない。
「ごめん、痕がどうとか無神経だった」
「そんなこと気にしてたのか。こんな傷、放っておけば完治するさ。俺が言ったのは、肩にあるやつのことさ。……シウ、はだけてみろよ」
サイリはシウの手を取り、襟元を肩のほうへ寄せさせた。ノアの腕にあったものと同様の痕が、サイリの均一な肌を蝕んでいた。生まれつきのものなのか、或いは生きているなかでできたものなのか、いずれにしろ人の目には好まれないことは予想がついた。
「消えないんだ、一生。醜いだろ?」
シウは首を横に振る。サイリという名の少年についた痕が、醜いわけがない。むしろ秘密をひとつ明かされたことで、高揚感を覚えていた。欲を言えば、もっと奥を知りたい。シウは自らサイリの肌に手を滑らせ、肩に唇を当てた。痕の部分がズクンと脈打つ。
水平線の一部が白んできた頃、遊び疲れた二人は互いに支え合って宿まで帰った。ペンション裏の階段では、レイとセトが折り重なって目蓋を閉じている。シウは、まだ起きていたセトにクリーニングのことを伝え、裏玄関へ向かった。サイリは兄の側に留まり、寄り添って眠りについたようだ。
皆が眠っているペンションの中へ入り、息を潜めて二階へ上がる。ノアとサイリは外にいるため、五号室には誰もいないはずだった。それなのに、僅かに開いた扉口から淡い光が溢れている。出かけるときは何とも思わなかったが、ランタンでも消し忘れたのだろうか。
シウは隙間から、つい覗いてしまった。二号室の母親たちが、勝手に忍び込んで腰に手を回しているのだ。両者とも下着姿だ。ノアが喋ったことは本当だった。子供の目に触れさせないためだろう。シウは何も見なかったことにして、そっとドアハンドルを引いた。
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