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空中都市中階層第三地区。
いつか訪れたカフェのテラス席で報告書を作成していると、端末が通知音を鳴らした。
「はい、エインズリーです。」
電話に出てみると、もはや聞き飽きつつあるいつもの声がした。
「今どこにいるんだよ、事務所を空にして遊び歩いてるのか?」
「おまえと一緒にするな。今日解決した案件の依頼主に報告を済ませた後、そのまま出先で例のオルゴールの件の報告書をまとめてるんだよ。」
毎回彼の揶揄いに律儀に説明してしまう自分に嫌気を感じながらも、答えてやる。
「で?要件はなんだ?ないなら切るが。」
「ヘイウッド氏が亡くなったとさっき知らせが来た。最後まで片時も離れずに自動人形のあの女の子が付いていて、笑顔で眠るように息を引き取ったんだってさ。」
ヘイウッド氏と人形の少女の再会から三日が経っていた。
一度は手放してしまった少女と三日間、老人は後悔を捨てて幸福な時間を過ごすことができたのだろうか。彼の手を離れてからの時間を少しでも埋めることはできたのだろうか。二人以外にその答えはわからないのだろうが、笑顔で眠るように息を引き取ったのならば少しでもいい結果だったのだと思いたい。
「……そうか。」
「あと、自動人形の彼女からエインズリー宛に伝言だ。最後に彼に会わせてくれて、彼のために歌わせてくれてありがとう、だとさ。」
ダレンは目の奥に熱いものが込み上げるのを感じ、慌てて目頭を押さえる。そして誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「……よかった。」
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