一日目・放課後

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 前世でプレイした——させられたともいえるBL系恋愛ゲーム。題名こそ朧気ながら、それでもコウが通うこの高校が舞台であるという確信だけは持っていた。なぜなら、高校名が同じであり他ならぬ“糸衣レイ”——彼の顔が、姿が。攻略対象キャラクターと同姓同名、瓜二つだからである。  ストーリーは確か、一年生として入った主人公が攻略対象と中を深めていくことは勿論。その過程でそれぞれのキャラクターが持つ異能力について知り、心の闇を解きほぐしていく、というものである。 (ってことはレイも、何か異能力を持っていて……その所為で?)  校舎を出て、一人正門を向かう帰り道。甦った過去の“(だれか)”の記憶を頼りに、どうすればを防げるのものかとコウは考え続けていた。 (くっそ、もっとちゃんとプレイしとけよ“(だれか)”!!)  覚えているのは、普通にプレイしたらほぼ確定で入る東柳ソウタルートのストーリーのみだ。他の攻略対象については顔や名前、どんな属性(じんぶつ)かという少なすぎる情報のみだ。  そして思い返す限り、コウ自身はその舞台(ゲーム)に登場していないはずだ。つまりは端役すらもらえていない、時折背景に映りこむだけの存在。 (そんな俺に救えるのか? アイツを?) 「あの、ちょっといいですか」  校門を通り過ぎようとしてコウに向けた鋭い声に、視線を上げる。そこに立っていたのは、整った顔の男と——愛嬌のある顔の男の二人。知らないはずの両人の顔を見たコウは、見慣れた覚えある感傷に浸りながら。 「東柳ソウタと……山南川、チヒロ」  この高校(ぶたい)メインヒーローとメインヒロインの名前を口から零す。 「知ってるんですね、先輩。オレらのことを」 「まあ、お前ら華があって目に付くし」 「……本当にそれだけですか?」 「どーゆー意味だよ」  含みのあるチヒロの言葉に、コウがキッと目つきを鋭くすれば庇うようにソウタが一歩前へと出る。卒業式は、攻略対象たちが揃い踏みとなり話を締めくくるカーテンコールのようなものだ。それを目前にしてこの二人の距離感を考えれば、——その関係性は容易に想像が付く。 「用がないなら帰る。じゃあな」  台本のある彼らが羨ましい、と溜息を吐いて横を通り過ぎていったコウ。その背中に向かって。 「先輩は! ……なんでんですか?」 「どういうことだ」  振り返り見たチヒロは、その目を怒らせてコウを見つめている。黙ったまま視線を交わすこと数舜。 「勿論、レイ先輩の——」 「——お前、ちょっとツラ貸せよ」  前回にはなかったイレギュラーに、コウは解決の糸口を見た。
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