一日目・ファミレス

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一日目・ファミレス

「お前、……未来を知ってるだろ」  所変わって、ファミレス。付いてきたソウタをドリンクバーに追いやってすぐ、コウはチヒロにそう言い切った。 「どこで、そう思ったんですか?」 「一つの可能性を思いついたんだよ。お前という主人公が持つ異能力があるなら、時間跳躍(タイムリープ)だろうなって」  異能力、のあたりだけひそっと声をひそめると、ただ頷きでチヒロはコウの言葉を肯定する。 「“救わなかった”って言ったろ。それを含めた希望的推論だ」 「成る程。さすが先輩、頭の回転が早い。主人公うんぬんは分かりませんが」 「へっ、そーかよ」  このタイミングで過去形で尋ねられれば、当然未来を知っていると予測できる。ゲームの中ではそんな設定はなかったが、セーブ&ロードが昇華された結果と考えれば妥当だろう。 「チヒロ、メロンジュースだ。先輩はウーロン茶でいいんですよね」 「ありがとう、そーちゃん」 「どうも」  戻ってきたソウタが大きな手で三人分のジュースをテーブルへと載せる。それに空返事を返したコウは、チヒロに再度向き直った。 「なあ。救う術はあるってことだよな」  “救わなかった”。それはできたのにやらなかったというニュアンスを含む言葉である。つまり今コウが求めてやまない未来への道筋を、チヒロは知っているということ。 「教えてくれ。どうすればいいか。……アイツをむざむざ同じ未来に向かわせるつもりはねえ」 「その言葉が聞けてよかったです。力を振り絞って、最後の時間跳躍(タイムリープ)をさせた甲斐があります」 「おい、チヒロそれは」 「そーちゃん大丈夫。先輩は、知ってるから」  チヒロの凛とした声に、ぐっとソウタは押し黙る。彼も心眼の異能力を持つがゆえに心配するのは理解できた。知る大人にそのチカラを悪用され、人知れず心を病んだこともコウは知っているから。 「レイ先輩には、そーちゃんとのことでお世話になったんです」 「……だから、俺を?」 「はい。助けられるのは貴方だけですから」 「でも俺は知らないんだ。レイが何を抱えてるのか、どんな異能力で、どうして――」 「――先輩、運命って信じますか?」  コウの畳み掛けを遮るように、チヒロが言う。その言葉に面食らったように口を噤んだのは、つい先程思い出した問答があったからか。 「思い出してください。僕から言えるのは、それだけです」  だってこれは、貴方とレイ先輩の話なんですから。  そう続けてメロンソーダを飲み始めたチヒロを、コウは苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。
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