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 7月も後半に入ったが、その間、優くんから天の川の水に関する話題は一切無かった。やっぱり冗談だったのだろうか。自分から訊くのも、催促しているようで憚られる。そんなことよりも、私の誕生日にどこかへ連れて行ってくれる計画を立てていたようだ。 「8月4日なんだけどさ。一緒に行って欲しい場所があるんだけど、いい?」 「いいよ」  優くんはこの日、休みを取ってくれた。昼間は、映画を観たりショッピングをしたり、いつも通りそこまで特別感は無かった。でも、映画館ではポップコーンを単品ではなくセットにしたり、ショッピングでは一品多めに買ったり、ソフトクリームはプレーンではなくトッピングを付けたりと、少しだけ贅沢なデートだった。些細なことだけど、そんな違いがなんだか嬉しい。  夏の夕方は長い。夜八時を過ぎても、薄っすらと空は明るかった。優くんはどこかへ車を走らせている。目的地は秘密だそうだ。町から離れ、ネオンや外灯の明かりも殆ど無い。辺りはすっかり暗くなっていた。 「着いたよ。ここからは歩いて行く」  森というほどではないが、背の高い木々が立ち並び、根本には鬱蒼と草や低木が生い茂っていた。  私と優くんは、茂みの中を進む。左手に持つキャンプ用のランタンを掲げ、行く先を照らす優くん。彼が前を行き、歩きやすいように草を踏み馴らしてくれた。私の服や肌を引っ掛けないように、低木の小さな枝を右手で掃い道を作ってくれる。枝を掃う時以外は、私の手を握り、引いてくれた。
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