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私の実家には、縁側がある。先祖代々伝わるお屋敷で、純和風の平屋建てだ。庭は、敷地内に森があるほど広い。私がいま座っている縁側に至っては、5コース同時に雑巾掛けレースができるほど幅広で長い。
天井から突き出す軒下に目を遣る。釘にぶら下がり、時折吹く、七月のそよ風に揺れる風鈴が、心地の良い音色を私の心に注いでくれる。風鈴の背景には、立体感のあるお馴染みの入道雲が、今年もその圧倒的存在感を醸し出していた。
そんな縁側で、地面に下ろした足を草履に差し込み座っている私は、青葉茜。来月、8月4日の誕生日が来ると、二十二歳になる。
キャミソール一枚でも、じっとりと汗ばむ暑さ。1つしかなかった髪留めゴムは、前髪を束ねるほうに使った。晒されたおでこの上で、角のように立っている。垂らしたままの長い髪が、首の付け根に張り付く。暑い。鼻の頭が少し痒い。どうやら、私みたいな低い鼻でも日焼けをするようだ。
「平和だ」
そう思ったら、騒音と言ってもいいくらいに喧しい蝉の鳴き声が、急に気になった。それもそのはず、私の頭上の軒に、一匹の油蝉がとまっていた。たった一匹でも、間近で鳴かれると大騒音である。
「蝉くんよ。君は幸せかい?」
未だ大音量で鳴き続ける蝉の羽音に、私の声は掻き消された。
「優くんは、何してるかな」
優くんこと宮森優太は、私の彼氏である。4つ年上で、社会人だ。ちなみに私は大学生。
たった一週間という寿命を、力の限り頑張って生きている蝉くんを見ていたら、優くんのことが気になった。きっと今頃、一生懸命仕事しているんだろうな。SNSを送ってみた。
〉優くん♡
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