夏の夜の花火

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夏休みが終わる8月31日、明日から高校の授業が始まるため沙月さんとは会えなくなるかもしれないと思った僕は、何となく寂しい感情が込み上げてきていた。 この日は沙月さんとバスで朝霧高原のまかいの牧場に行って、馬に乗ったり、牛の乳しぼりを体験したり、ヤギの散歩をしたりして楽しんだ。 夕刻になってまかいの牧場を出て花火大会の日に沙月さんと出会った山の上の公園に行ってベンチに座った頃には、夜も更けて辺りは暗くなり空にはきれいな星が輝いていた。 「きれいなお星さま…」 沙月さんが空を見上げて嬉しそうにつぶやいた。 「明日は会えないのかな?」 僕が寂しい感情を抑えながら話をすると沙月さんが、 「星夜さん、今までありがとう!  私は元の世界に戻らなければならないの…」 と返事をしてくれたけれど、僕には沙月さんの言葉の意味が理解できなかった。 「星夜さんは、本当に優しいね!  星夜さんは私の命の恩人だよ!」 沙月さんの発言に思い当たる節がない僕は、 「命の恩人って…  僕、沙月さんに何かしたのかな?」 と聞き返すと沙月さんは、 「星夜さんは私に食事を与えてくれたの…」 と話してくれた。 ますます意味が理解できない僕が首をかしげていると沙月さんが、 「星夜さん、私は星夜さんとまた会いたい!  いつになるかわからないけれど、またここで星夜さんと再会できると信じてる。  夏の花火大会の日に、このベンチでまた会いましょう!」 と優しそうな笑顔で言葉をかけてくれた。 沙月さんは立ち上がって僕にバイバイと手を振って歩き始めたので、僕も立ち上がって沙月さんの後姿を見つめていた。 すると薄暗い公園の芝生を歩いている沙月さんの体がまぶしい光で覆われて沙月さんの姿が見えなくなり、少しすると光が少しずつ薄れてきて、そこには神社の裏で見つけた白い子猫が歩いていた。 子猫は少し歩くと振り返って僕の方を名残惜しそうに見つめ、 「ミャー」 と鳴いて走って公園の裏手の林の中に入って姿が見えなくなった。
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