夏の夜の花火

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夏休みが終わって翌日から高校に登校して授業を受けたけれど、僕の心はぽっかりと穴が開いたような感覚になって、なかなか授業に集中できなかった。 しかし日が経つにつれて大学へ行く目標に向けて、受験勉強に集中するようになった。 1月中旬に大学入学共通テストを受験して1月下旬に個別学力検査に出願して2月初旬に第1段階選抜結果発表で通過し、2月下旬に2次試験を受験して3月初旬に合格した。 僕は4月から東京都内の国立大学の理工学部に進学することになった。 大学1年生の僕は夏休みになると静岡の実家に帰省し、花火大会がある日は山の上の公園に行って沙月さんと出会ったベンチに座った。 しかし沙月さんが現れることはなかった。 大学2年生の夏休みの花火大会、大学3年生の夏休みの花火大会、大学4年生の夏休みの花火大会、僕は毎年山の上の公園に行って沙月さんと出会ったベンチに座ったけれど沙月さんと再会することはできなかった。 大学を卒業した僕は静岡の実家から通える自動車会社の研究部門に就職した。 夏になって花火大会がある日、僕は毎年通っている山の上の公園に行って沙月さんと出会ったベンチに座った。 僕はいつか沙月さんと再会できるのではないかと信じて、ベンチに座って花火大会が始まる時間を待っていた。 時刻が20時になると花火が打ち上げられた。 僕がきれいな花火を見ていると僕が座っているベンチの隣に浴衣姿の女性が座ったので、僕は少し緊張しながら隣の女性を見ると見知らぬ女性が座っていた。 僕は隣の女性が気になってちらちらと横を見ると、その女性の年齢は僕と同じか年下のような感じで、色白できれいな顔立ちだった。 白にピンク色の花柄の浴衣姿で、髪は後ろでまとめられていて、うちわで顔を扇ぎながら花火を見ているようだった。 その姿は5年前に出会った沙月さんに雰囲気が似ていた。 しかしその女性の膝の上には白い子猫が座っていて、じっと僕の方を見つめていた。 僕は子猫のことが気になって、 「その子猫は、飼っているのですか?」 と女性に質問すると、 「はい、5年程前から飼っているのですけれど、そこの神社の裏手に捨てられているようでした。」 と教えてくれた。 さらに女性が、 「段ボールの中にこの子猫がいて、どうもエサが与えられていたようなのです。  私が子猫を家に持ち帰って、飼い始めました。」 と話してくれて、僕が高校3年生の夏に見つけた子猫だと確信を持った。
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