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──彼は、あの男のことが、好きなんだろうな。
それは、すんなりと蒼士の腑に落ちた。
同性同士ということに、特に戸惑いも嫌悪も湧かない。意外とリベラルな思考を持っていたらしい、と他人事のように思う。
彼はタオルを首に掛け、立ち上がった。
大きく息を吐き出してから、ゆっくりと仲間の方へと歩いて行く。
──ああいう男は、お前の気持ちになんて、気付きもしない。
休憩終了、という主将の言葉に、ヘルメットを被った蒼士は、自転車に跨った。
──そんなに一途な目を向けていたって、所詮、報われない。
山道へと向かう先輩達の後ろについて、蒼士もペダルを踏み込む。
向こうから、彼が歩いて来ていた。
──勿体無い。
彼の横を走り抜けた時、過ぎった想いは、何だったのか──その時の蒼士には、解らなかった。
やがて暑い日々が続くようになり、野球部の集団に、彼の姿を見かけることはなくなった。
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