螢火

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後輩と客人の子息がは特に顔が似ているという訳ではないので一見では分かるわけでもないのだが、やけに弟となる方の子息殿の方が後輩を偉く大変に「兄さまっ!」と、見つければ駆け寄る程に気に入ってもいた。 そうなった原因は俺から言わせれば、後輩の自業自得でしかない。 簡潔に言うのなら兄弟互いに俺が坊っちゃんを背負って今掃除しているこの中庭で、初対面の時に、猫の用な気まぐれな性格をしているくせに、子息殿が困っていることもあった影響もあるが、実に甲斐甲斐しく世話をやいたことで、それは盛大に懐かれてしまったということになる。 後輩は腹違いの客人として弟が来るという事は、俺が神父さまを経由して報せて知っていてはいたんだが、どうやらその1日だけとばかりに思っていたら、進学の為に暫く屋敷に逗留すると聞いて、口を真四角にして「ヴぇ」と声を漏らしていた。 そしてその後輩の不服そうな様子を神父様に一応報告をしていたのなら 「明晩くらいに逃げるかも知れないから、」 と、甘味の団子を実に(うま)そうに食べながら、俺は暗に指示を出される。 神父様の予想通りに後輩は、形見であるという銃を抱えて屋敷から逃げ出そうとしていたので、見張っていた俺が蹴りを一発いれてそれを阻止した。 後輩は本気で逃げ出そうとしてはいていたが、思いの外あっさりと逃げる事は諦める。 俺が担いで部屋に戻そうとする時も全く暴れることもなかった。 多分、毎日元気な声しか出さない坊っちゃんが、夜中に厠に行くのに俺を誘うのに、俺がいないことに泣き出して、それに気がついた子息殿ーーー後輩の弟殿が、手を繋いで一緒に探して、後輩を「兄さま」と呼ぶ声に多少考えることもあったんだと思える。 そして、後輩から特にそれ以降は不穏な行動や発言も見当たらず、俺も神父さまに報告したのなら日常は戻ってきた。 弟殿が屋敷に加わったことで多少賑やかしいことになると思ったが、進学の為の習い事で日中は朝から出て夕刻は夏がもうすぐ迫っているというのに、日がすっかり暮れてから戻ってくる事が殆どになる。 流石にこれには俺も後輩も、そして弟殿と遊べると期待をしていた坊っちゃんも閉口させられた。 何でも、弟殿の御実家が実家から離れるにしても、努力を怠ることが無いようにというので、ほぼ日中の計画は詰められているらしい。 普段ワガママな坊っちゃんも 「てへんじゃな……」 と、俺に抱きついて口に出してしまうのには、俺も同調して頷いてしまう程だった。
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