螢火

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そして大変だと思うのは後輩も同じだったようで、「兄さまっ!」と呼ばれれば相変わらず露骨に厭そうな表情を隠しもしないが、見つかった時には自分から逃げるような事はしなくなった(姿を隠せていたのなら、隠し続けるが)。 多分、弟殿が兄である後輩を見かけたのなら心の底から浮かべている安堵の表情に、ここは兄弟ならではとも言うべきか、何かしら気が付いてしまったのだろうと思う。 更にここに弟殿のが、猫のような後輩を襲ってもいた。 「兄さまが稽古事の送迎の時に一緒に来てくださるのが、私にとっては最高の息抜きで安らぎになります。本当は、実家を離れてこちらの御屋敷のお兄様が進学した学校に出来るのか、不安だったのです。でも、こうやって兄さまと御一緒出来るなんて、私、本当に幸せです。稽古事も兄さまと一緒に行けるのなら、私ももっと頑張ろうと思えます」 多分弟殿は普通に会話をしたぐらいの気持ちなんだろうが、後輩は俺に報告をしたのちに「眩しかった」とだけ呟いて遠い眼だけをする。 特にそのあとは偶然に屋敷内で弟殿と遭遇しないようにしつつも、それ以上に毛嫌いをする様子はなかった。 送迎については本当は屋敷の誰かしら、大人が良いとしてはいたんだが、大人だって物騒に巻き込まれたのなら、どうにも出来ないことが多い時勢に、後輩は猟銃を常に肌身離さずもっているから、その事でも送迎の係が定着する。 俺が自業自得と言っているのは、にかかっているんだが、後輩はそれでも銃を離すよりは、腹違いの弟殿の送迎を銃を抱えて受け入れるという選択を選んでいた。 まあ、俺もいつも俺に引っ付いている坊ちゃんが後輩と喧嘩をするのを仲裁をするよりも、坊ちゃんの話し相手をしながら屋敷での仕事をするほうが気楽だから、それで良いような気もする。 何よりそういったことを含めて神父様に報告したのなら、「順調そうで何よりだ」と上機嫌だったから、俺からは何も言うことはない。 ただ、現状は俺がすべきことは同年という"兄さあ"こと、兄君の話を熱く語る坊ちゃんを抱っこしつつ適当な返事をしながら、中庭の掃除をを熟すだけでだった。 「なあなあ、は兄さあの顔は知っちょっとよね?」 「はい、お写真で拝見させてもらっていますよ」 一頻り話してようやく落ち着いた坊ちゃんが、俺に確認をする様に訊いてくるので、正直に答える。 この屋敷で働き始める前に、神父様からモノクロの家族写真で確り予習はしていた。
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