夏の話

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 江戸の町は蒸し暑かった。彼は恋した娘が涼しくなりたいというので怖い話を聞かせてやろうとしていた。 「涼しくなりたいのかい」 「できれば」 「きょうてい話を聞きていかい」 「意味がわからない」 「きょうていとは怖いという意味の言葉だよ」 「あんまり怖くなければいい」 「それならしてやらあ」 「怖すぎるのはだめだよ」 「わかってらあ」 「わかってないような気がする」 「鬼は首をもいだ」 「何それ冗談?」 「まっまそんなところだな」 「意味がわからない」 「ううんどうしよう」 「口下手お前さんのことだ、許してやろう」 「面白い話は聞きたいの?」 「何でもいい」 「何が聞きたいのかい」 「涼しくなるくらいの話」 「夏の夜は暑いから涼しくなりたいね」 「そうなのよ」 「風通し良くしなければ暑いよ」 「雨戸を開けるのも不用心だしな」 「あなたみたいな娘はなおさらだ」 「怖いし」 「夏の夜は花火でも見に行こうか」 「何でもいい」 「何でもいいの?」 「次郎はどうなの?」 「おきくの好きなことがいい」
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