はじまりの予感

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「これ、どうぞ」    『えっ?』  彼は、ハイボール一本を私に両手で差し出している。 「誕生日、おめでとうございます。  あの、少し遅れちゃいましたけど……    すぐ渡しに行こうと思ったんですよ!  でも案外お客さん多くて……」  そういう彼の後ろにある掛け時計を見ると、  時計は24時10分を指していた。 10分遅れの「おめでとう」。 差し出されたハイボールを受け取る。 いや、誕生日プレゼントがハイボールって どんだけ可愛げないんだ。わたし。 でも、 なぜか可愛げの無さが愛らしくて 思わず、笑みがこぼれる。 『あ、ありがとう。うれしい』 可愛らしく喜ぶことはできなかったけれど、本当にうれしかった。 私の言葉を聞くと、彼は安心したように胸を撫で下ろす。 「ワンチャン、通報されるかもなって思いながら、声かけました」 彼は私の目を見つめながら、少年のように笑った。 そのとき 私の鼓動は セミの鳴き声よりも、鬱陶しく鳴り響いていた。 また誰かを愛せるかもしれない。 そんな予感がした。
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