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誕生日には必ず思い出してしまうことがある。
あの日も、今日と同じように、セミの鳴き声が鬱陶しい夜だった。
もう思い出す必要なんて無いのに、幾度となく自分の中で反芻される思い出。
あの日は、彼と付き合い始めて二度目の誕生日。
私は、リビングを装飾し、ケーキと料理を用意して彼を待った。
仕事で遅くなりそうと連絡が来ても、眠い目をこすりながら今か今かと待ち続けた。
そして、家の扉が開いたのは、日を越し、誕生日が終わった10分後だった。
玄関先まで出迎えた私は、できる限りの優しい笑顔をつくり
「仕事おつかれさま。疲れたでしょ、大丈夫だった?」
と言った。
なるべく聞き分けのよい、いい女で居たかったのだ。そんなの脆くて弱い強がりでしかないのに。
「やさしいね、香奈は。前の彼女なんて少し遅れただけでカンカンだったよ」
そう話す彼は、元カノを思い出したようで、ちょっぴり楽しそうに笑った。
胸が締め付けられる。
何でそんなに楽しそうに笑うのよ。
私も彼女と同じように怒れば良かったのかな。
仕事と私、どっちが大事なの。とかいうありふれた質問を投げ掛ければよかったのかな。
そして、最後には目を潤ませて
寂しかったよ
一緒に祝ってほしかった
って言えば良かったのかな。
こんなに可愛げのない私でも、
あなたは今
私を思い出して、ちょっぴり楽しそうに笑ってくれていますか?
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