はじまりの予感

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コンビニの自動ドアが開き、冷気が流れ出す。 店内には、私以外に2、3人のお客さんがいる。 私は、迷うことなく、お酒売り場に向かう。 友達はハイボールが好きだったよな。 そう思い、ハイボールをカゴに入れようとした瞬間。 Purupurupuru……purupurupuru…… スマホの着信音が鳴り響く。友達からだ。 「あぁ、香奈、ホントにごめん。お母さんが熱中症で倒れちゃったみたいで。そんなに大したことは無いんだけど。」 『えっ! それは大変だね』 「そうなの、でもさお父さんが看病してあげればいいのに、なんかお父さんテンパっちゃてるみたいで。お母さんが急に倒れたぞ、助けてくれって。ホント頼りない父親だわ〜」 呆れたような声を出す友達。 でも、その声には、これ以上ないほどの家族への愛情が込もっている。 『私は全然大丈夫だよ、ホントに気にしないでね。実を言うと私も仕事残っちゃってて、まだ会社なんだよね〜』 「あっそうだったの! 誕生日に残業はエグいね〜」 『でも、1人家で誕生日を終えるよりは、まだマシだよ! 気が紛れるし! 』 「確かにそれもそうかも。でも、仕事、無理しないようにね! 」 『ありがとう。お母さん、お大事にね! 』 「うん、ホントありがとう。ねぇ、埋め合わせは今度絶対するから! じゃ、またね。」  電話を切り、スマホをポケットにしまう。 私は、手に持っていたハイボールを、陳列棚にゆっくりと戻した。
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