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 その日は蒼が生まれてちょうど六ヶ月経つ日だった。胡座をかいた自分の足の間 に蒼を座らせ、両手を持ってハーフバースデーおめでとう、と語りかけ拍手をさせ る。蒼はとニコッと目尻を下げて微笑んだ。笑うとすっと伸びる目尻は母親似だ。表情も豊かになり、少しずつ寝返りや離乳食を始めたりと僕は我が子の成長を嬉 しく思っていた。  喜びを感じでいたのは妻の可奈も同じで、二人とも蒼を溺愛し過ぎている、と義妹にからかわれる程だった。可奈にプレゼントとしておもちゃを買って帰る約束 をし、仕事へと向かった。  夜帰宅すると、可奈が青ざめた表情で玄関へ駆けてきた。 「今さっきからなんだけど、蒼の様子がおかしいの、すぐに来て」  自分の顔から血の気が引いていくのがはっきりとわかった。急いで靴を脱ぎ、寝室に駆けつけると、確かに蒼の様子がおかしい。体はガタガタと震え小刻みに揺れていた。顔はいつもの赤ちゃん然とした頬の赤みが全くなく、青ざめている。呼びかけにも反応なく、苦しそうな表情で眉根を寄せたまま目を開けることもない。 「救急車......」 そう可奈が口走った時には、僕はすでにスマホをもち一一九番に電話をかけていた。  救急車は二十分程で来た。地方とはいえ、感染症の影響で救急車が出払ってお り、時間がかかったとのことだった。  蒼の状態を確認した救急隊員も搬送が必要と判断したようだったが、搬送先がなかなか決まらない。感染症はこんな田舎にも影響を及ぼしていた。熱も四十度 近くあり、精気がなくぐったりとしている。最悪の展開が頭をよぎった。可奈と黙って目を合わせる。何も語らずともその表情でお互いが「死」という言葉を頭に浮かべているのがわかった。僕達は搬送先が決まるまで地獄のような時を過ごした。  結局、救急車は一時間ほどその場で立ち往生した後、やっと搬送先が決まり隣町の小児科のある総合病院に向かった。車は救急車搬送口から応急処置室へ入り、蒼はすぐに処置を施された。蒼の顔にやっと血の気が戻り状態は少し持ち直 したように見えた。だが検査の結果、血液の炎症反応がひどく高いなどの異常が 認められ、さらに詳しく検査が必要とのことで蒼は入院となった。
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