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 蒼は無事退院となった。蒼を抱きながら入院棟を後にし、桜の見える廊下を歩いていく。大きな窓から見える桜はもうほとんど散ってしまって、枝がむき出しになっておりどこか物寂しかった。ふと桜の下の道に目をやると、あの病室の小さな鯉のぼりが地面に落ちて、風に吹かれ、桜の花びらに埋もれていた。僕は病棟の方に目を向ける。あの病室にはカーテンが閉められており、中の様子を伺い知ること は出来なかった。男の子は元気だろうか。僕は蒼を腕の中にしっかりと抱きしめた。  僕の中で、蒼が生まれることでそれまで以上に世界を愛せるような感覚が芽生えていた。だがそれと同時に、今まで以上に世界がはっきりと怖くなったのだった。 ぼんやりとした希望のようなものと、確かな恐れを胸に感じながら、僕たちは桜の見える廊下を通り抜けた。
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